○ポエムor SS (閲覧非推奨)

管理人が現実逃避の途中に創作したポエムや小話を置いています。

閲覧後に体調不良を起こす場合があるので、自己責任の上ご覧ください。

 

2014.04.02(水) 或る弟の回想
 
 
*
 
締め切りは全ての文章を書く人を救うのだ!
 
唐突な叫び声で目が覚めた。僕は普段から目覚まし時計の代わりにスマートフォンのアラーム機能を使用しているが、アラーム音をこんな不快なボイスに変更した覚えはない。まだ覚醒しきっていない頭で枕元のそれをチェックすると、今はまだ朝の5時だった。
明け方に我が家ではた迷惑な大声をあげる人間といえば、一人しか思いつかない。すっかり眠気が吹っ飛んでしまった僕は、仕方なくベッドから降りて部屋から出ると、未だに廊下で高笑いをしている女性の背中に向かって呼びかけた。
 
「姉さん、朝からうるさいよ。近所迷惑だろ」
 
振り向いたのは、僕の姉、雛子(ひなこ)。華やかな容姿とは裏腹にものぐさな性格で、いつも高校の課題を溜め込んでは前日に泣きべそをかいている。先程の叫び声から察するに、きっと今回も課題を終わらせるために徹夜でもしたのだろう。いつものことだ。
 
「おっ、おはよー弟よ! ねぼすけだなあ!」
「姉さんのそれは早起きじゃなくて徹夜明けって言うんだよ」
「まあね! それでもちゃんとやることはやる、私グッジョブ!Σd=(´∀`*)」
 
徹夜明け特有のウザったいテンションを全開に、姉は僕の手に原稿用紙を押し付けてきた。
 
「何これ……読書感想文?」
「そう! ちなみに感想文を書き始めたのは昨日!」
「計画性皆無だな……」
「ゴチャゴチャ言ってないで、校正よろしく頼むよ! アンタの方が現国の成績良いんだから!」
「はいはい……」
 
溜め息をついて原稿に目を落とす。寝起きにこんな作業をやらされるくらいなら、朝食の時間までベッドに居れば良かった。
 
「やっぱさ、期限ギリギリに終わらせる課題って良いよねー! 終わった瞬間のこの達成感! なんていうかこう、『生きてる』って感じがする! ようこちゃんとかさ、提出日の一週間前にもう終わらせちゃったなんて言うんだよ!? 絶対に人生損してるよ!」
 
いろいろな意味で問題のある彼女の発言を聞き流しながら、簡単に文章のチェックをしていく。しかし、文章の中に並んだ或る文字列を見て、僕は今度こそ完全に覚醒した。
 
「私が読んだ本……『恋の文は弓矢に載せて』……作者、真中樹里(まなか じゅり)……」
 
姉の方を見ると、どや顔でこちらを見ている。殴りたい。
 
「姉さん……、これ……」
「この本、めっちゃ良いんだよ! 私もう100回は読み返しちゃった! 」
「いや……良いとか悪いとかじゃなくて……これ、ライトノベルじゃんか!」
「ライトなんかじゃないよ! この本は私の心にヘビーに突き刺さったの! 毎回ファンレターまで書いてるんだよ!? 筆無精のこの私が!」
「そういう問題じゃねえよ! 何処の世界に、ラノベを題材に読書感想文書く高校三年生が居るんだよ!」
「えっ、ダメなの!? 私、今日この感想文提出しないと留年決定なんだけど……」
「そんな大事な課題なら尚更しっかりした本を選べよ! 名作文学とかあるだろよ!」
「ちょっとー、うるさいんだけど!」
『すいません!』
 
そういえば今は早朝5時だった。隣家の主婦に怒鳴られて初めて思い出した。
 
「……まあ、ダメもとで提出してみたら? 意外とOK来るかもよ?」
「だ……大丈夫かなあ……なんか不安になってきた……」
「不安になるのが遅すぎるだろ……じゃ、僕は着替えてくるから」
 
動揺を気取られないよう、僕は早々に退散することにした。背中越しに、姉が呼びかける。
 
「あ、ちょっと待ってよ、七央(ななお)ー! 漢字ミスとか無かったー?」
「静かにしろって……ざっと見た感じ、無かったよ」
 
良かったー、と、一向に声量を落とすつもりの無い姉を横目に、僕は自室に戻った。まだ心臓がバクバク言っている。
 
 
 
 
 
机の上にあるPCを起動させると、メールが1通届いていた。クリックして開く。
 
 
『真中先生
 
新作に関する打合せをしたいので、空いている日を教えてください。もちろん学業が優先で構いませんので。
 
担当』
 
 
急を要する内容でないことを確認し、PCを閉じる。不意に、笑いが込み上げてきた。
僕の勉強机の引出しには小さな錠前が付いている。鍵を取り出し、解錠する。中を軽くあさり、1通の手紙を取り出した。
 
 
『拝啓 真中樹里様
 
あなたの本を読ませていただきました。とても感動しました! 特に、主人公の女の子が初恋を貫くために弓道部に入部するところからの心の動きが……
 
 
……新作も絶対に買います! お仕事がんばってください!
 
ハミングバードより』
 
 
(ハミングバードって、雛鳥じゃなくてハチドリのことなんだけどな……。それに、この文章の拙さ……まさか年上が書いてるなんて思わないだろ……)
 
もうすぐ朝食の時間だ。何も知らずに上機嫌な姉を目の前にして、どうやってこの笑いを堪えれば良いのか見当もつかない。
僕は思わずつぶやいてしまった。
 
「本当に、
 
 
 
 
この世界は、広いようで狭い
 
 
 
*
 
このSSは【ムカデ人間】という企画のために書き下ろしたものです。次の執筆者である『散文詩』管理者様は、『この世界は、広いようで狭い』から始まるテキストを書いてください。
 
○よくある質問と回答
「姉弟ともに、ハンドルネームのチョイスが単純すぎだろ!」→高校生の黒歴史です。大目に見てあげてください。
「住所でバレるだろ!」→出版社を介しています。
「この程度の文章をSSとか言っちゃって、恥ずかしくないの?」→ぐはっ……。
 
楽しく執筆させていただきました!企画に参加させていただき感謝いたします。
 
 

管理人:愚者No.0

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